2024年10月9日に9月のFOMCの議事要旨が発表されました。今回の会合では50bpの利下げと大幅な利下げとなりました。その議事要旨について見ていき、今後の見通しについて考えてみようと思います。
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50bpの利下げが決定した背景
2024年9月のFOMCにおいて、利下げが行われました。その利下げ幅は50bpと通常の利下げの2回分に相当します。このような大きい利下げが行われた背景はどのようなところであったのでしょうか。
利下げが行われた背景について説明する前に、FRBではどのような項目に注目しているか説明します。FRBはデュアルマンデートという「2つの使命」というものを背負っています。1つめの使命が「物価の安定」で、2つ目の使命が「雇用の最大化」です。そのため、直近の物価と雇用について見ていきます。
まずは、物価について見ていきます。物価と言っても、FRBが見ている項目は一つではなく、様々な物価を見ているため、一概にこうだからとは言えないものの、注目度の高い指標として、PCEがあげられます。これは毎月月末近くに、前月分の物価指標を表したものであり、この指標のうち総合指数は2%台前半を付けており、また、食料品やエネルギーを除いたコア指数では、2%台後半を推移しています。一時期(特に2022年には)5%台を推移していましたが、インフレ率の上昇率は非常に落ち着いているということができます。
一方で、雇用についてです。これは毎月ほぼ第一金曜日に発表される雇用統計を見ています。雇用統計は代表的な指標というと、非農業部門雇用者数(NFP)、失業率、平均時給の3つの項目です。このうち、NFPと失業率が最近では景気減速感を示しだしました。
大きな要因となった直近の雇用統計
まず、NFPについてですが、
8月の第一金曜日に発表された7月分雇用統計において、市場予想17.5万人に対して、結果は11.4万人であり、9月に発表された8月分雇用統計において、市場予想16.5万人であったのに対して、結果は14.2万人でした。また、雇用統計においては発表された数値は次回以降の発表において、修正されることがありますが、9月には発表された雇用統計において、7月分NFPが下方修正されました。それが、11.4万人から8.9万人です。
直近3年間のNFPの推移でいうと、平均的に20万人を超えているのにもかかわらず、直近の数か月において、NFPが20万人を切るどころか、場合によっては10万人も切ってしまうことがあったために、景気減速懸念は大きく高まりました。
次に、失業率についてですが、
8月に発表された7月分雇用統計において、失業率が4.3%を記録しました。それまでの失業率の推移を見ていくとわかるのですが、2023年7月分の雇用統計において失業率3.5%を記録してからというものの、1年程度かけて緩やかに失業率は上昇していきました。
この4.3%という水準は完全雇用に近い状態ではあるものの、1年間で失業率が0.5%程度上昇する場合、景気後退に陥ったとする「サームルール」があり、それに基づいて考えるとアメリカでの景気後退懸念が非常に高まった状況であると考えることができます。
実際に、今回発表された議事要旨において、このように記載されています。原典はこちら
Participants discussed the risks and uncertainties associated with the economic outlook. Almost all participants saw upside risks to the inflation outlook as having diminished, while downside risks to employment were seen as having increased.
参加者は経済見通しに関連するリスクと不確実性について議論した。ほぼすべての参加者は、インフレ見通しの上振れリスクは減少したとみている一方、雇用の下振れリスクは増加したとみている。
つまり、今回のFOMCにおいて、インフレ率の推移は大きなトピックにならない一方で、雇用関係の指標に注目度が高い状況となっています。
今後の金融政策についての見通しは?
では、今後はいつどのくらい利下げが行われていくのかということです。
まず、上記の引用文でも説明されている通り、インフレ率の推移により利下げが遅れる可能性は非常に低くなっていると考えることができると思います。しかし、労働市場に関する統計は注目度が高い状態であると見ることができます。
その中で、このように考えることができます。
「FOMCは利下げを継続するスタンスであるものの、雇用が再度低い伸びを示さない場合、年内の残り2会合において25bpずつの利下げが行われる可能性はほぼないだろう。」
そのような状況の中で、今月10月4日に9月分の雇用統計が発表されました。結果としては、労働市場は非常に活況とした内容でした。具体的には、NFPは市場予想が14.8万人と前回の14.2万人と同程度の数値が発表されることが予想されていた一方で、25.4万人となり、大幅に改善しています。
また、失業率についても、4.2%と前回維持の内容が予想されていたにも関わらず、ふたを開けてみれば2か月連続で失業率が下落しており、労働市場の大幅な改善が見て取れます。
さらに、今回の雇用統計が良い内容であったのは、今回の結果だけではありません。前回、前々回の内容についても修正されました。前回8月分のNFPについては、1.7万人上方修正され15.9万人となり、前々回7月分の雇用統計については、5.5万人上方修正され、14.4万人となりました。
このように9月分の雇用統計により、労働市場の改善が見られただけではなく、直近の統計についても改善が見られたことにより、市場では利下げ期待が大幅に後退しています。2024年9月分雇用統計はこちら。
このような状況から、少なくとも次回11月6日~7日に行われるFOMCにおいては、利下げが見送られるものであると考えます。11月については、雇用統計は11月8日に発表されるため、FRBメンバーは11月に発表される雇用統計を見ることができないため、現状では10月発表の雇用統計で判断せざるを得ず、現状ではアメリカ経済は非常に堅調であることから、利下げを後押しする内容にはならないと考えられるからです。
一方で、そのあとの12月17日と18日のFOMCにおいては、11月と12月に発表される雇用統計を見たうえで判断することができるので、経済指標次第になってしまいますが、議事要旨では、以下のように記載されています。
In discussing the outlook for monetary policy, participants anticipated that if the data came in about as expected, with inflation moving down sustainably to 2 percent and the economy near maximum employment, it would likely be appropriate to move toward a more neutral stance of policy over time.
参加者は、金融政策の見通しについて議論する中で、データがほぼ予想通りで、インフレが持続的に2%に低下し、経済が最大雇用に近づいた場合、時間の経過とともに政策をより中立的な姿勢に移行するのが適切である可能性が高いと予想した。
つまり、現状では金利は非常に高い状態であり、現在の経済状態は物価・労働市場ともに均衡状態であることから、緩やかに金利も低下することが見込まれるととらえることができます。そのため、四半期ごとなのか、半年ごとなのかは不明ですが、雇用統計において大幅に予想を上振れるようなことがなければ、利下げが行われるのではないでしょうか。
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